大滝しおんの晴筆雨筆

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北方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日 民集 第40巻4号872頁)

シジョセンと学ぶ民法判例集は、紫雲女子大学消費者センターの相談記録(シジョセン)の登場人物たちの会話劇で民法の主要な判例をおさらいするシリーズです。
今日のテーマは「北方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日 民集 第40巻4号872頁)」です。

 

登場人物
神前愛佳(部長、消費生活相談員、予備試験合格者、法学部3年)
芽森琴音(カウンセラー、お嬢様、家政学部2年)
白砂菜月(アシスタント、空手女子、体育学部2年)
七緒実乃里(アシスタント、ヒロイン、法学部1年)
村正悠也(顧問弁護士、24歳のイケメン?)
 
登場人物の詳細はこちらでご確認ください。

ootakishion.com

 

琴音「政治家さんのスキャンダルが話題になっていますわ。政治家さんが、私の記事は北方ジャーナル事件同様にもみ消されるべきだと発言したために炎上していますの」

菜月「スキャンダルを起こしておきながら反省してないってことだな。「もみ消されるべき」って特権階級だと思ってるんだろうな」

実乃里「北方ジャーナル事件・・・・・・。それ、今、勉強しているところなんです。なんか、憲法、民法のどちらでも重要な判例らしいです」

愛佳「とても重要な判例だわ。どういう事件だったか分かるかしら?」

実乃里「はい。雑誌の出版社が知事選挙に立候補するAさんのスキャンダル記事を発表しようとしたところ、Aさんが裁判所に雑誌の出版を止めるように命じてほしいと訴えたんだそうです。裁判所は、出版の事前差止めを認めました。それに対して、出版社がおかしいと訴えた事件です」

琴音「裁判所が出版の事前差止めを認めたということは、政治家さんのスキャンダルとは言え、公にするにはふさわしくない記事だったんでしょうね」

菜月「誰が見てもでたらめな内容だったということかな」

愛佳「そうね。公職選挙の候補者に対する評価、批判等の記事は、私たちが投票する際に参考にすべきだから、原則として出版の事前差止めが許されないのよ。でも、例外的に認められることもあるのよ。どういう場合か分かるよね?」

実乃里「はい。『その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるとき』ですね」

愛佳「そうよ。要件が2つあることを読み取ってね」

 

  • その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白。
  • 被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞がある。

 

実乃里「北方ジャーナル事件って、憲法でも出てくるんですけど、民法的にはどういう意味があるんでしょう?」

琴音「民法には、名誉毀損に関するまともな規定がないと聞いたことがありますわ」

菜月「名誉毀損って刑法に規定があるんだよな」

 

刑法

(名誉毀損)

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

 

愛佳「そうなのよ。それに対して、民法には次の規定しかないのね」

 

民法

(名誉毀損における原状回復)

第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

 

実乃里「名誉毀損された後で、名誉を回復するのに適当な処分って……、何かできることあるんでしょうか?」

愛佳「一般的には加害者に謝罪広告を出させるというところね」

琴音「でも、謝罪広告なんて古いですわね。新聞を読まない人やテレビを見ない人が増えているんですもの」

菜月「後出しで謝罪広告を出したところで、でたらめな記事を信じた奴はなかなか目が冷めないだろうし、却って火種になることもあるよな」

実乃里「……名誉の回復って今の時代では難しいですよね」

愛佳「そうね。だからこそ、でたらめな記事は、裁判所による事前差止めを認めるべきという考えが出てくるのね。でも、名誉毀損になりそうな記事の事前差止めができるという規定は、民法にはないのよ。そこで、裁判所が新しい解釈を打ち出したのよ」

 

人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償又は名誉回復のための処分を求めることができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。

けだし、名誉は生命、身体とともに極めて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は、物権の場合と同様に排他性を有する権利というべきであるからである(最大判昭和61年6月11日 民集 第40巻4号872頁)。

 

愛佳「つまり、人格権に基づく事前差止めが認められるということね」

実乃里「民法的には、民法に書かれていない権利を認めたという意義があるんですね」

愛佳「そういうことよ」

 

 

まとめ

 

出版物の事前差止めを求める権利は、民法上規定がないが、人格権に基づく事前差止めが認められるという解釈が打ち出された。

なお、公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には原則として、事前差止めは認められない。

例外として、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは認められる。

 

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サブリース契約の期間満了による終了と転借人への対抗(最判平成14年3月28日 民集 第56巻3号662頁)

シジョセンと学ぶ民法判例集は、紫雲女子大学消費者センターの相談記録(シジョセン)の登場人物たちの会話劇で民法の主要な判例をおさらいするシリーズです。
今日のテーマは「サブリース契約の期間満了による終了と転借人への対抗」です。


登場人物
神前愛佳(部長、消費生活相談員、予備試験合格者、法学部3年)
芽森琴音(カウンセラー、お嬢様、家政学部2年)
白砂菜月(アシスタント、空手女子、体育学部2年)
七緒実乃里(アシスタント、ヒロイン、法学部1年)
村正悠也(顧問弁護士、24歳のイケメン?)
 
登場人物の詳細はこちらでご確認ください。

 

ootakishion.com

 

判例集を前にした実乃里が頭を抱えていました。

実乃里「うー。さっぱり、分からない……」

琴音「どうしましたの?」

実乃里「あの、琴音先輩、ビルのサブリースってなんですか?」

琴音「ビルのサブリースですわね。例えば、実乃里ちゃんが、駅前の一等地に土地を持っていたとしますわ。そして、ビルを建ててテナントを募集しようと計画したとしますわね。そんな時、実乃里ちゃんならどうしますの?」

実乃里「ビルを建ててテナントを募集するって……、そもそも、どんなビルを建てればいいか分からないですし、テナントの募集方法も分かりません」

琴音「そこで、賃貸ビルの経営ノウハウを持っている不動産会社にビルの建設から賃貸経営までおまかせするんですわ」

菜月「実乃里はビルのオーナーになって、実際の賃貸経営は不動産会社がやるということだな。実乃里は何もしなくても安定収入が得られるってことさ」

琴音「普通の賃貸経営では、空室が出たらお家賃が入りませんけど、サブリースなら空室でも収入が得られるということですわ」

愛佳「民法上は、転貸借という契約関係になるのよ。実乃里ちゃんがビルのオーナーで不動産会社にそのビルを一棟まるごと貸す。そして、不動産会社がテナントにビルの一室を貸すという関係ね」

 

愛佳がホワイトボードに次のように書き出しました。

ビルのオーナー=賃貸人

不動産会社=賃借人(転貸人)

テナント=転借人

賃貸人→賃貸借契約→賃借人(転貸人)→転貸借契約→転借人

 

実乃里「あっ、そういう関係なんですね」

愛佳「そして、その先の話がややこしいのよね」

実乃里「はい。サブリースにおいて、ビルオーナーは信義則上、期間満了による不動産会社との賃貸借契約の終了をテナントに対抗できない、そうですが、どういうことでしょう?」

愛佳「転貸借契約というのは、賃貸借契約が有効に続いていることが前提の契約だわ。賃貸借契約が期間満了によって終了すれば、転貸借契約も自動的に終了せざるを得ないのよ」

 

※なお、転貸借契約を終了させるには、賃貸人から転借人への通知が必要。

借地借家法

(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)

第三十四条 建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。

2 建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する。

 

実乃里「そうですよね。サブリースもそう考えるべきなのにどうして、そうならないのでしょう?」

琴音「サブリースの場合、不動産会社はビルのオーナーとテナントを仲介しているようなものなんですの」

菜月「テナントから見るとビルのオーナーから借りているのであって、不動産会社から借りている意識はないってことだな」

愛佳「そうね。ビルのオーナーと不動産会社は契約上は賃貸借契約を結んでいるけど、ほぼ一心同体のような関係にあるのね。そして、この判例の事例では不動産会社が撤退したのよ。あとはビルオーナーとテナントが直接やり取りしてくださいってことね」

実乃里「あっ、そういうことなら、賃貸借契約が終わったから、転貸借契約も終わりというのでは、テナントさんが困りますよね」

愛佳「そうでしょ。でも、この場合、どうすべきかは民法にも借地借家法にも書かれていないのね。そこで、信義則を持ち出したのよ。信義則はどこに書かれているか分かるわね」

実乃里「はい。民法1条2項ですね」

 

民法

(基本原則)

第一条

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

 

琴音「信義則って便利な規定ですわね。法律に規定がない時に使えるんですわね」

菜月「困った時の信義則ってとこかな」

 

 

まとめ

 

建物の賃貸借契約が期間満了により終了すれば、原則として転貸借契約も終了する。

しかし、サブリース契約の場合は、賃貸人は転貸借を承諾したにとどまらず、転貸借の締結に加功し、転貸借契約の締結に積極的に関与したと言える。

そのため、賃貸借が期間満了により終了しても、賃貸人は転借人に対抗することはできず、転借人は建物の使用を続けることができる。

 

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紛失防止タグを使ったストーカー被害が急増中!

この記事は日々、紫雲女子大学消費者センター(シジョセン)で行われているミーティングや相談内容について、著者大滝しおんが会話劇の形で書き留めたものです。

 

警察庁が「紛失防止タグを使ったストーカー被害が増えている」との集計結果を発表しました。GPS機器によるストーカー行為はストーカー規制法により禁止されていますが、紛失防止タグは対象外となっているため、今後、法改正が求められています。この件について紫雲女子大学消費者センター(シジョセン)でもミーティングが行われたので書き留めておきます。

 

登場人物

 

神前愛佳(部長、消費生活相談員、予備試験合格者、法学部3年)

芽森琴音(カウンセラー、お嬢様、家政学部2年)

白砂菜月(アシスタント、空手女子、体育学部2年)

七緒実乃里(アシスタント、ヒロイン、法学部1年)

村正悠也(顧問弁護士、24歳のイケメン?)

 

登場人物の詳細はこちらでご確認ください。

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愛佳「それじゃあ、ミーティングを始めるわよ」

実乃里・琴音・菜月「よろしくお願いします」

実乃里「今日は、村正先生はお休みでしょうか?」

菜月「どっかでサボってるんだろ」

琴音「きっとお昼寝しているんですわ」

愛佳「あいつのことはどうでもいいわ。今日は、紛失防止タグを使ったストーカー被害が増えているという話よ」

実乃里「紛失防止タグって、AirTagとかのスマートタグのことですよね。家の鍵とか大切なものに取り付けておけば、紛失した時に、スマホで場所を探せるんですよね」

菜月「紛失防止タグを被害者の持ち物とかにこっそり仕掛けて、位置を探るという方法かな。手口としては新しいものではないよな」

琴音「そうですわね。プレゼントとかを貰った時は、紛失防止タグやGPSが仕掛けられていないかチェックすることが大切ですわね」

菜月「でも、そういうのって、ストーカー規制法だっけ? 法律で処罰の対象になっているんじゃなかった?」

愛佳「ストーカー規制法では、位置情報記録・送信装置による位置情報無承諾取得等が禁止の対象なのよ。簡単に言えば、GPSによるストーカー行為のみが禁止されているということね」

琴音「GPSだけが禁止なんですわね? すると、AirTagのようにBluetoothの仕組みを使う紛失防止タグは規制の対象外ということですの?」

愛佳「そういうことよ。だから、法改正が必要とされているのよ」

菜月「法改正なんてするまでもなく、紛失防止タグも位置を知るのに使えるんだから規制の対象ということでいいんじゃないの?」

愛佳「そうはいかないのよ。実乃里ちゃん、どうしてか分かるかしら?」

実乃里「……うーん……。あっ! 罪刑法定主義ですね。刑法などで処罰の対象となる行為は、あらかじめ法律で明確にして置かなけれはならないという原則です」

愛佳「そうよ。刑事法では、類推解釈は原則として禁止されているのよ。紛失防止タグによるストーカー行為もGPSによるストーカー行為と似ているから罰しようというのはダメなのね。だから、紛失防止タグによるストーカー行為を規制対象にするには法改正が必要ってこと」

菜月「そうなんだな」

琴音「お勉強になりましたわ」

愛佳「いずれにしても、紛失防止タグによるストーカー行為に注意するように告知するわよ。実乃里ちゃんも気をつけるのよ」

実乃里「はい。気をつけます」

 

ミーティングが終わったところで、シジョセンの部屋に村正先生があくび混じりに入ってきました。

 

村正「あー。マジで忙しい。今日は、何か、なければすぐ帰るから。これ、和泉先生から差し入れだとよ」

 

村正はそう言いながら、クッキーなどが入っているらしい紙袋をテーブルに置きました。

 

愛佳「忙しいとか嘘つかないでよね。どうせ、今までどっかに寄って、サボってたんでしょ!」

村正「はあ? 何言っているんだ! 事務所から直行してきたんだぞ! 休む暇もないほど忙しいんだ!」

 

すると琴音が紙袋を開いて何かを取り出しました。

 

実乃里「えっ。それって、紛失防止タグじゃないですか!」

琴音「村正先生が、どこでサボっていたか、和泉先生は把握しているということですわ」

村正「はあぁぁぁぁ? ストーカーじゃねえか! ストーカー規制法違反だぁ!」

菜月「今のところ、紛失防止タグによる位置情報取得は、ストーカー規制法の対象外なんだぞ。弁護士のくせにそんな事も知らないのか?」

村正「ありえねぇぇぇぇ!」

実乃里(なんか、村正先生大変そう……)

 

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信玄公旗掛松事件(大審院判大正8年3月3日)

シジョセンと学ぶ民法判例集は、紫雲女子大学消費者センターの相談記録(シジョセン)の登場人物たちの会話劇で民法の主要な判例をおさらいするシリーズです。

今日のテーマは「信玄公旗掛松事件(大審院判大正8年3月3日)」です。

 

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琴音「武田信玄ゆかりの松が枯れたから伐採したそうですわ。信玄が旗をかけたという伝説があるそうですの」

ノートパソコンでニュースをチェックしていた琴音がそうつぶやきました。

その言葉に民法の判例の勉強をしていた実乃里がハッとします。

実乃里「えっ? 信玄が旗をかけた松? それって、令和のニュースですか?」

琴音「そうですわ。もっとも、松の寿命は約300年から500年ほどと言われているので、本当かどうかは分かりませんけどね」

実乃里「そうなんですね。実は今、信玄公旗掛松事件の判例を勉強しているところなんです。大正時代にも信玄が旗をかけたという伝説がある松が枯れたという話でした。信玄公旗掛松っていくつあるんでしょうか?」

菜月「そんな話はいくらでも盛れるからな。大正時代の話だって、適当に言い出したんじゃないの?」

愛佳「そうよ。大正時代の信玄公旗掛松事件の松も樹齢を鑑定したところ、真実ではないことが判明しているわ」

実乃里「あっ。そうだったんですね。すると、この事件は嘘の話で、加害者からお金を取ろうとしたんでしょうか?」

愛佳「武田信玄ゆかりの松かどうかはともかく、この事件は、他人が所有する松を蒸気機関車の煤煙で枯らしたことが問題なのよ。どういう事件か分かるわね?」

実乃里「はい。Aさんが所有する松のそばに線路が敷かれたんです。おまけにすぐ近くに停車場が設けられたんです」

菜月「大正時代の蒸気機関車は石炭を燃やして水を沸騰させて、蒸気の力で動かすやつだからな。煤煙と熱い蒸気を出しているから、線路の側に木があると枯れるだろうな」

琴音「おまけに停車場ということは、停車中に、大量の煤煙と熱い蒸気を出し続けるわけですから、なおさら影響を受けやすいですわね。それが原因で枯れてしまったということですの?」

実乃里「そういうことみたいです」

愛佳「じゃあ、この場合、Aさんはどういう理由で鉄道会社を訴えたらいいかしら?」

琴音「当時の鉄道会社は国が運営していましたでしょ? 国を訴えるのはなかなか難しいでしょうね」

愛佳「今なら、国家賠償法があるけど、当時は、権利者は悪をなさず、国は悪をなさずという考え方だったのよ。国を相手に訴訟を起こすのは相当の覚悟が必要だったはずだわ」

実乃里「うーん。するとどういう理由で訴えたらいいんでしょう」

菜月「国には、鉄道を敷いて蒸気機関車を走らせる権利があるんだろうけど、他人の大切な松を枯らしたのは、権利の濫用というところかな?」

実乃里「あっ。そうですよね。これも権利の濫用の判例なんですね」

愛佳「正解よ。そして、権利の濫用によって、他人の大切な松を枯らしたわけだから、不法行為に当たるというのがこの判例のポイントよ。不法行為が成立する場合、加害者は損害賠償責任を負うのよ」

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

実乃里「すると、Aさんは国に賠償金を支払ってもらえたということなんですね?」

愛佳「そうよ。当時としてはかなり踏み込んだ判決だったのよ」

 

 

まとめ

 

信玄公旗掛松事件は、権利の濫用を理由に国の損害賠償責任を認めた判例だった。

 

 

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宇奈月温泉事件(大審院判決昭和10年10月5日)

シジョセンと学ぶ民法判例集は、紫雲女子大学消費者センターの相談記録(シジョセン)の登場人物たちの会話劇で民法の主要な判例をおさらいするシリーズです。

今日のテーマは「宇奈月温泉事件(大審院判決昭和10年10月5日)」です。

 

登場人物

神前愛佳(部長、消費生活相談員、予備試験合格者、法学部3年)

芽森琴音(カウンセラー、お嬢様、家政学部2年)

白砂菜月(アシスタント、空手女子、体育学部2年)

七緒実乃里(アシスタント、ヒロイン、法学部1年)

村正悠也(顧問弁護士、24歳のイケメン?)

 

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琴音「松葉杖をついて菜月ちゃん大丈夫ですの?」

菜月「うん。大した事ないよ。少し足をくじいただけさ。数日練習を休めば治るって」

 

シジョセンの部屋に松葉杖をついて現れた菜月。ギプスを巻いているわけではないが、足を引きずっている姿は痛々しい。

実乃里と愛佳も思わず、菜月のもとに駆け寄る。

 

実乃里「何があったんですか?」

菜月「昨日、空手の練習でしくじっただけだよ。たまにこういう事があるんだよね」

愛佳「無理してはだめよ。温泉にでも行って湯治してきたら?」

琴音「そうですわ。どうせなら、みんなで温泉に行きませんこと。どこか行きたい温泉あるかしら? 実乃里ちゃん?」

実乃里「うーん。温泉といえば、宇奈月温泉ってどこにあるのか調べようと思ったところなんです」

琴音「あら、宇奈月温泉は、富山県の黒部峡谷にありますのよ。でも、どうして、宇奈月温泉ですの?」

実乃里「あっ、富山県の黒部峡谷にあるんですね。実は、民法総則の講義で宇奈月温泉事件の話が出てきたから、どこにあるのか気になったんです」

愛佳「よく勉強しているわね。宇奈月温泉事件の概要を説明してくれるかしら?」

実乃里「はい。宇奈月温泉って実は、源泉がそこにあるわけではなく、黒薙温泉というところから、引湯管で引いているんだそうです」

菜月「へえ、よそから温泉を引いてくる温泉街もあるんだ?」

琴音「そうですわ。黒薙温泉は宇奈月温泉よりも約7キロ離れた上流にありますのよ。1923(大正12)年に引き湯を始めたそうですわ。当時は赤松でできた木管でお湯を引いていたんですの」

実乃里「その木管は、いろいろな人の土地を通っていたんです。その土地の一つをAさんが所有していたんですが、これをBさんに売ったんです。そして、Bさんは自分が買った土地に木管が勝手に設置されたと文句を言いだしたんだそうです」

菜月「ちょっと待って。木管が設置されたのはAさんが所有していたときなんだよな?」

実乃里「そうなんです」

琴音「それなら、Bさんは木管が設置されていることを承知の上で買ったということですわね」

愛佳「そうね。それでも、Bさんは宇奈月温泉の経営者に対して、所有権に基づく妨害排除請求として、木管を撤去するように求めたのよ。でも、宇奈月温泉の経営者は応じなかった。そこで、裁判になったわけね。当時の大審院まで争ったわけだけど、どういう判決が出たか分かるわね?」

実乃里「はい。権利の濫用を理由にBさんの訴えを棄却したんですよね」

琴音「権利の濫用ですわね。確か、民法に規定がありますわよね?」

実乃里「はい。民法1条3項ですね」

 

民法

(基本原則)

第一条

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

実乃里「つまり、外見上は権利の行使のように見えても、社会的に許される限度を超えている場合は、適法な権利行使として認められないということですよね」

愛佳「そうね。実はこの規定は、戦後に導入されたのよ。事件当時の民法にはこの規定がなかったのね。だから、宇奈月温泉事件は権利濫用法理が確立された判例として有名なのよ」

実乃里「そうなんですね」

愛佳「重要なのはここからね。Bさんが買った土地は112坪の広さがあったのね。そして、木管が通っていた土地は、そのうちのわずか2坪だけなのよ」

菜月「はあ? たった2坪で文句言うとかおかしいだろ。Bさんは、宇奈月温泉の経営者に難癖をつけて、金を取るために土地を買ったんじゃないのか?」

愛佳「まさにそのとおりなのよ。そして、仮にBさんの主張通り、木管を撤去するとなるとどうなるかしら?」

実乃里「宇奈月温泉の経営が成り立ちませんよね」

琴音「Bさんの土地を迂回する事も考えられますけど、それだと、工事が大変ですわね。それに、迂回していたら、お湯が漏れたり冷めてしまうおそれもありますわ。宇奈月温泉にとっては多大な損失になりますわね。そもそも、Bさんの土地は急峻な崖で使い道がないはずですわ」

菜月「使い道がないなら、なおさらBさんが文句を言うのはおかしいよな」

愛佳「宇奈月温泉事件では、権利の濫用の判断基準が示されたことでも知られているのよ。大審院は、権利の濫用に当たるかどうかは、次の点から総合的に判断すべきとしたのよ」

 

権利行使者の害意(主観的要件)

当事者ひいては社会一般の利益状況の比較衡量(客観的要件)

 

愛佳「実乃里ちゃん、この事件に当てはめるとどうなるかしら?」

実乃里「はい。Bさんは宇奈月温泉の経営者に難癖をつけてお金を取ろうとしていたんですよね。だから、害意がありますよね。それから、Bさんの土地に木管があっても、特に困ることはないんですよね。そもそも土地の使い道がないわけですし。それに対して、宇奈月温泉は、木管を撤去したり迂回すると経営に影響するから、ものすごく困るんですよね。Bさんと宇奈月温泉の利益状況を比較衡量すると、やはり、Bさんの主張を認める必要はないと」

愛佳「よくできたわ。宇奈月温泉事件は、権利濫用法理を確立した判例。そして、権利濫用に当たる場合の判断基準を示した判例ということだわ」

実乃里「よく分かりました」

琴音「じゃあ、早速明日、みんなで宇奈月温泉に行きましょうよ。お代は私が出しますわ」

菜月「ありがとう。うれしいよ」

 

 

まとめ

 

宇奈月温泉事件(大審院判決昭和10年10月5日)は権利濫用法理を確立した判例である。

権利濫用に当たるか判断する際は次の2点を総合的に判断する。

 

  • 権利行使者の害意(主観的要件)
  • 当事者ひいては社会一般の利益状況の比較衡量(客観的要件)

 

この会話劇に登場する女子大生たちの活躍は、下記のライトノベル小説「紫雲女子大学消費者センターの相談記録 初回500円の甘い罠」でお読みいただけます。

 

ぜひ、ご覧ください。

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企業を狙ったボイスフィッシング詐欺の被害が急増中!

文響社から出版中の紫雲女子大学消費者センター(シジョセン)シリーズの登場人物たちによる会話劇「シジョセン劇場」。今日のテーマは「ボイスフィッシング詐欺」です。

 

中小企業を標的としたボイスフィッシング詐欺が流行っています。フィッシング詐欺はメールで偽サイトに誘導し銀行預金の口座番号やパスワードなどを抜き取るものですが、ボイスフィッシング詐欺は金融機関を装った「電話」により巧みに偽サイトに誘導する方法です。その手口について、紫雲女子大学消費者センター(シジョセン)でも話題になったので書き留めておきます。

 

登場人物

 

神前愛佳(部長、消費生活相談員、予備試験合格者、法学部3年)

芽森琴音(カウンセラー、お嬢様、家政学部2年)

白砂菜月(アシスタント、空手女子、体育学部2年)

七緒実乃里(アシスタント、ヒロイン、法学部1年)

村正悠也(顧問弁護士、24歳のイケメン?)

 

登場人物の詳細はこちらでご確認ください。

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琴音「これは、新手のフィッシング詐欺ですわね」

 

ノートパソコンでニュースサイトを見ていた琴音がつぶやきました。

 

実乃里「フィッシング詐欺って、メールが送られてきて、メールに書かれているURLをクリックすると、銀行とかの偽サイトに誘導されるという手口ですよね」

菜月「最近はそんな手口に引っかかる人は減っているだろうな。そもそも、口座のない銀行からメールが送られてくれば、詐欺って分かるし」

愛佳「メールの内容が気になるなら、公式サイトやアプリに直接アクセスして、確認することね。とにかく、メールのURLは絶対にクリックしないのが基本だわ」

琴音「ところが、ボイスフィッシング詐欺の場合は、まず、電話が来るそうですわ」

 

どういう手口なのか気になった実乃里たちは琴音のノートパソコンを覗き込みました。

 

実乃里「まず、詐欺犯は金融機関を装って電話をかけて、情報の更新が必要と偽って会社のメールアドレスを訊ねる」

愛佳「被害者がメールアドレスを知らせるとメールが送られてくる。そして、そのメールのURLをクリックすると偽サイトに誘導されてしまうわけね」

琴音「そうですわ。あとの流れは、一般的なフィッシング詐欺と同じですわね。ただ、この手口は中小企業が標的になっているだけに、一社あたり億単位の被害を受けてしまうこともあるそうですの」

菜月「最初の電話は自動音声なんだな。音声ガイダンスにしたがって操作すると、詐欺師が出てきて手続きに必要だからとメールアドレスを訊ねられるわけか」

愛佳「自動音声ということは、自動で電話するシステムを使っているのかしら?」

琴音「オートコールというシステムですわ。リスト順に自動音声で電話をかけられるんですの。そして、反応があった時だけ、詐欺犯が直接電話に出るということですわね」

実乃里「詐欺犯も効率的にやっているんですね……」

菜月「でもさあ。そもそも、本当に取引先の銀行だったら、メールアドレスなんて聞かなくても知っているはずだよな」

琴音「そうですわ。メールアドレスを聞かれる時点でおかしいと気づくべきですわね」

愛佳「そうね。電話だと、騙されやすいのかもしれないけど、結局、予防策は同じだわ」

実乃里「はい。メールのURLは絶対にクリックしないということですね」

琴音「ニュースでは、現在の標的は中小企業のようですけど、いずれ、個人の方も標的になるかもしれませんわ」

愛佳「そうね。こういうフィッシング詐欺もあることを周知すべきね」

 

その時、部屋の片隅の椅子で熟睡していた村正先生のスマホに着信がありました。

 

村正「ぐう……。んっ……、なんだ? もしもし……」

村正「はあ……? 俺の銀行口座が凍結されただと……! ちょっと待て! なんだコレ! 自動音声じゃねえか! 人間出せ! 人間!」

実乃里「村正先生。落ち着いてください。それって、ボイスフィッシング詐欺じゃないですか?」

村正「えっ? フィッシング詐欺? 電話でフィッシング詐欺なんてあるのか?」

菜月「また、お前が真っ先に引っかかってるのな」

琴音「電話の話を聞いてないで、直接、銀行のサイトやアプリ、正式な問い合わせ先で確認してくださいませ」

愛佳「その必要はなさそうだわ。どうせ大した金額が入ってないんでしょ」

村正「はあ? 何言っているんだ! 俺だって、実乃里ちゃんと結婚するための資金を貯めてるんだからな!」

実乃里「ええっ!」

 

この会話劇に登場する女子大生たちの活躍は、下記のライトノベル小説「紫雲女子大学消費者センターの相談記録」でお読みいただけます。

ぜひ、ご覧ください。

 

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詐欺的売買と契約の不成立(本庄簡裁判昭和60.3.25)

行政書士試験、司法書士試験、司法試験に合格した後で弁護士等になって消費者トラブルや内容証明郵便の実務に取り組みたい方に役立つ消費者法の判例を紹介します。

 

今日の消費者法の判例は、詐欺的な勧誘を受けて契約を締結しても錯誤により取消しができるというものです。

例えば、次のような勧誘を受けたとしましょう。

  • あなたは旅行クラブの会員に選ばれました。
  • 会員になれば海外旅行に半額で行けます。
  • もっとも英会話も必要ですよね。

そこで、契約書を示された場合、どのような契約だとお思いになるでしょうか?

 

多くの方は、海外旅行に半額で行けるという旅行クラブの会員の契約だと思うでしょうね。

ところが、この契約は、実際には英会話教材の販売契約とその立て替え払い契約だったという事例です。

 

申込をした方は旅行クラブの会員入会契約だと思ったわけで、英会話教材を買う契約を結んだ覚えはないとのことで民法95条の錯誤による取消し(事件当時は無効)が主張できる事例でした(本庄簡裁判昭和60.3.25)。