ネットショッピングやオンラインサービスなどでは、「ダークパターン」と呼ばれる取引が問題になっています。
強制、干渉、執拗な要求、妨害、こっそり、社会的証明、緊急性の7パターンが知られており、これらの手法が用いられた場合、消費者は購入時の判断を誤ってしまう可能性があります。
必要ないものを買わされたり、知らぬ間に定期購入したことになっていることもあります。
このような場合は、特定商取引法や消費者契約法などにより、クーリング・オフや契約解除は可能なのでしょうか?
ネットショッピングはクーリング・オフできない
ネットショッピングなどの通信販売は、クーリング・オフすることができません。
そもそも、クーリング・オフは、訪問販売などで不意打ち的に取引を持ちかけられて、売買契約を締結してしまったけど、あとになって冷静に考えたら、必要なかったという場合に、原則として、契約書面等を受け取ったときから、8日間なら契約解除が可能という制度です(特定商取引法9条)。
ネットショッピングは、不意打ち的に契約することは想定されておらず、むしろ、じっくり吟味したうえで、契約するパターンがほとんどです。
そのため、クーリング・オフ制度は用意されていません。
ただ、商品の現物を見ないで購入する場合は、手元に届いたときに、「思ったのと違っていた」「サイズが合わなかった」というケースもあります。
そこで、商品を受け取った時から8日以内であれば返品も可能としています。なお、返品にかかる費用は消費者の負担になります。
もっとも、販売業者が、返品は受け付けないといった特約を明示していた場合は返品できません(特定商取引法15条の3)。
そのため、消費者としては返品を受け付けているのか? 返品可能期間はいつまでなのか? などの返品特約をよく読んでから購入することが大切です。
ダークパターンとは
ネットショッピングは、不意打ち的に契約することは想定されていませんでしたが、最近は、「ダークパターン」と呼ばれる消費者を欺く表示をするウェブサイトも現れています。
ダークパターンとは、消費者がネットショップを閲覧したり、商品を購入する際に、ネットショップ側の表示などにより、判断を誤ってしまうパターンのことです。
現在、提唱されているのは次の7つのダークパターンです。
- 強制(Forced Action)
- 干渉(Interface Interference)
- 執拗な要求(Nagging)
- 妨害(Obstruction)
- こっそり(Sneaking)
- 社会的証明(Social Proof)
- 緊急性(Urgency)
ひとつひとつ見ていきましょう。
強制(Forced Action)
強制とは、消費者に何らかの行動を強制するものです。
代表的なのは、商品を閲覧するだけでも、会員登録が必要となっているケースです。
会員登録の際は、メールアドレスのほか、様々な個人情報をネットショップ側に伝えなければなりません。
その結果、会員登録することで、様々な宣伝メールが送られてくるようになります。
干渉(Interface Interference)
干渉とは、ネットショップ側に都合の良い行動を消費者が採るように促されてしまう状態のことです。
例えば、ネットショップ側に都合の良い設定をデフォルトにしていたり、都合の良い宣伝文句だけを目立たせて、消費者に不利な情報は読みにくくする場合です。
また、虚偽の高値を設定して、割引価格を表示して安くしているように見せかけることも含まれます。
執拗な要求(Nagging)
執拗な要求とは、ネットショップやサービスを利用するのに、通知や位置情報を有効にするように執拗に要求されるパターンです。
頻繁にポップアップが表示されて、閲覧が妨げられるような状況になり、やむを得ずに要求通りに行動してしまう場合が代表例です。
妨害(Obstruction)
消費者がやりたいことをするのに必要以上のタスクを踏まなければならないようにして、諦めさせるパターンです。
代表的なのは、サービスの入会は24時間いつでもネット上で簡単にできるのに、退会や解約は電話でしか受け付けていなかったり、対応時間が平日の昼間だけというケースです。
こっそり(Sneaking)
消費者が購入していない商品やサービスがこっそり追加されているパターンです。
お試しで1回限りの購入のつもりだったのに定期購入になっているケースも含まれます。
社会的証明(Social Proof)
他の消費者の行動を知らせることにより、消費者の意思決定に影響を及ぼすことです。
代表的なのは、偽の口コミやレビューを掲載して、売れているように見せかけることが挙げられます。
緊急性(Urgency)
購入できるのは今だけだから急ぐように消費者にプレッシャーをかけるパターンです。
例えば、「在庫が残り何個」、「期間限定価格まであと何時間何分何秒」といった形で、今買わないと、買えなくなったり、損すると思わせることです。
ダークパターンへの対処方法
こうしたダークパターンに網羅的に対処できる法律は、現時点ではありません。
消費者庁や公正取引委員会などが、既存の法律に基づいて、行政的な取り締まりを強化することに期待するしかありません。
まず、特定商取引法の通信販売に関する規制が挙げられます。
例えば、会員登録によって、メールアドレスを伝えるように強制された場合は、広告メールがバンバン送られてくることが考えられますが、特定商取引法ではオプトイン規制といい、承諾していない消費者に広告メールを送ることを禁止しています(特定商取引法12条の3)。
消費者が広告メールを拒否しているのにネットショップが勝手に送ってくる場合は、指示処分や業務停止処分の対象となります。
消費者としては広告メールに悩まされている場合は、消費者庁等に通報することも考えられます。
また、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)は、現時点で、ダークパターンに包括的に対処しうる法律と言えます。
景品表示法では、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある」表示は、不当な表示として禁止しています(景品表示法5条三号)。
これに反する場合は、内閣総理大臣(正確には消費者庁)からの措置命令や課徴金納付命令の対象になります。
そのため、悪質なダークパターンに引っかかった場合は、消費者庁等に通報しておくべきです。
ダークパターンに引っかかった場合の解約方法は?
ダークパターンに引っかかった場合の解約方法としては、特定商取引法12条の6の規定に違反していることを理由とする同法15条の4の規定による取消しを主張する方法が考えられます。
特定商取引法12条の6の規定を簡単に説明すると、ネットショップで申し込む際の最終確認場面では、消費者にとって重要な情報をわかりやすく表示しなさいという意味になります。
例えば、「お試しで1回限りの購入のつもりだったのに定期購入になっているケース」では、自動的に定期購入となる旨をわかりやすく表示しなければならないものとされています。
定期購入になる旨がわかりにくい表示になっている場合は、特定商取引法12条の6に違反していることになります。
この場合は、購入して商品が手元に届いた後でも、特定商取引法15条の4の規定により、消費者側が契約の申込みの意思表示を取消すことができます。
返品を受け付けているかどうかに関わらず、取り消しができますし、商品を受け取ってから8日間が経過していても問題ありません。
また、その他のダークパターンによる契約も、消費者契約法4条に規定されている取消事由のいずれかに該当していれば、契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しが可能なこともあります。
まとめ
ネットサービスやネットショップで問題視されているダークパターンについて紹介し、その対処方法について解説しました。
ダークパターンに引っかかって困っている場合は、1人で悩むのではなく、まずは、地域の消費生活センターや法律事務所などに相談しましょう。
現時点では、ダークパターンに対処するための法律は限られていますが、事案によっては、解約等の対応が可能なこともあります。
ダークパターンに悩まされている方は参考にしてください。