民事訴訟法とは文字通り、民事訴訟の手続きについて定めた法律です。
民法では、様々な権利が規定されていますが、これを実現する手段がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。
例えば、不法行為の被害者は加害者に対して、民法709条に基づき、損害賠償請求ができますが、加害者が任意に支払わなければ、被害者が泣き寝入りする事態になりかねません。
そこで、こうした権利を実現するために、民事訴訟の手段が用意されています。
民事訴訟法とは?
民事訴訟法とは、私的紛争を公権力で強制的に解決するための手続きについて定めた法律です。
法律には、実体法と手続法という分類があります。
実体法は、私たちが持つ権利・義務の内容について定めた法律で、代表的なのが民法です。
それに対して、手続法は、実体法に規定された権利・義務を確認したり、実現するための法律で、代表的なのが民事訴訟法になります。
具体的な事例で考えてみましょう。
民法の売買契約の節には、次の規定があります。
民法
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
例えば、塾が教科書を販売する出版社に対して1000冊の教科書を注文して、その代金として100万円を支払ったのに、800冊しか届かなかった場合は、塾は出版社に対して足りない200冊を引き渡すように求めることができます。
出版社がこれに応じて引き渡せば問題ありません。
しかし、出版社が1000冊発送したはずだと言って、追加の引き渡しに応じなかった場合は、塾としては困ります。
現在の日本では、塾が出版社に乗り込んで、教科書200冊を強制的に取ってくる「自力救済」は認められていません。
これを認めたら、誰もが個人的に武力を持つようになり、治安の悪化にもつながるからです。
このような場合、塾は原告として裁判所に訴えて、教科書200冊の引き渡しを受ける権利があることを認めてもらう事ができます。
ただ、裁判所としては、塾と出版社の言い分のどちらが正しいのか分かりません。
そこで、出版社にも被告として裁判所に出頭してもらい、それぞれの言い分を主張してもらいます。そして、原告と被告のどちらの言い分が正しいのか確信を得た段階で、裁判所が判決を下します。
原告である塾の言い分が正しければ、請求認容判決、間違っていれば、請求棄却判決を出します。
また、双方の言い分を聞いたうえで、和解を勧告することもあります。この場合は判決を出さずに裁判を終えることもあります。
このような裁判所での「民事訴訟」のやり取りのルールを定めたのが民事訴訟法になります。
この裁判の結果、塾に教科書200冊の引き渡しを受ける権利があることが認められたとします。
でもこれだけでは、出版社が教科書200冊を引き渡すとは限りません。
「民事訴訟」で出された判決は、権利があることのお墨付きに過ぎません。被告が無視すれば、絵に描いた餅になってしまいます。
そこで、教科書200冊の引き渡しを強制的に実現したい場合は、「民事訴訟」とは別に、「民事執行」という手続きが必要になります。これを規定しているのは、民事執行法という法律です。
判決が出たのに、出版社が教科書200冊を引き渡してくれなかった場合、塾はもう一度、裁判所に出向いて、事情を説明したうえで、強制執行を行ってもらうわけです。
裁判所が認めれば、執行官を派遣して、強制執行してくれるという流れになります。
また、「民事訴訟」を行っている間に、出版社が教科書200冊を別に転売してしまい、在庫がなくなってしまうと、「民事訴訟」で塾の権利が認められても、教科書200冊の引き渡しを受けられなくなることがあります。
こうした事態を防ぐために、出版社の在庫である教科書200冊を差し押さえておく手続きもあります。これを「民事保全」と言い、この手続きを定めた法律を民事保全法と言います。
このように民事訴訟法は、民事訴訟のルールを定めた民事訴訟法がメインになりますが、民事執行法、民事保全法と合わせて、3つの法律で構成されています。
では、民事訴訟法の重要度について、5段階で評価してみましょう。
日常生活でのお役立ち度 |
★☆☆☆☆ |
実務での重要度 |
★★★☆☆ |
国家試験での重要度 |
★★★☆☆ |
講義の楽しさ |
★★★☆☆ |
民事訴訟法の日常生活でのお役立ち度
法学部で民事訴訟法を勉強して得る知識が、私たちの日常生活で役立つのかという指標です。
結論から言うと、日常生活で民事訴訟法の知識が役立つことはありません。
仮に法的トラブルに巻き込まれて、裁判になった場合でも、自分で訴訟を行う方はほとんどおらず、弁護士に依頼するのが一般的です。
もちろん、民事訴訟の流れを知っていれば、裁判がどの段階にあるのか理解できると思いますが、そんなことは弁護士が説明するはずですから、知っていてもあまり意味はありません。
民事訴訟法の実務での重要度
法学部で民事訴訟法を勉強して得る知識が弁護士や企業法務の担当者等に役に立つのかという指標です。
実務で役に立つかというと微妙です。
まず、実際に民事訴訟を遂行するのは、弁護士(簡易裁判所の場合は司法書士もありうる)ですが、弁護士なら、民事訴訟法は知っていて当然です。
そのうえで、どのような証拠を用意すればいいか、どのような書類を提出すればよいのかということは、法科大学院、司法修習、実務でみっちり勉強することになります。
つまり、法学部で勉強するレベルの内容は入門知識に過ぎないわけで、実務で役立つほどのものではありません。
その点は、企業法務の担当者でも同じで、本当に役立つ知識や実務や判例から得るしかありません。
もちろん、入門知識だからといって甘く見てはいけません。将来、民事訴訟に関わりたい方は、まず、法学部でしっかり勉強しておきましょう。
民事訴訟法の国家試験での重要度
民事訴訟法が出題される国家資格試験は、司法試験と司法書士試験だけです。
司法試験では、予備試験で短答式の出題もありますが、本試験では論文だけです。
司法書士試験では、短答式のみの出題で、マイナー科目に位置づけられています。
民法に比べると重要度は格段に下がりますが、司法試験や司法書士試験を目指すなら、しっかり取り組まなければ、合格できません。
民事訴訟法の講義の楽しさ
法学部の民事訴訟法の講義は面白いのでしょうか?
まず、民事訴訟法を面白いと感じるためには、民法が好きであることが前提になります。
民事訴訟法の講義では、民法の用語が当たり前のように出てきます。
例えば、「本訴及び反訴が係属中に、反訴請求債権を自働債権とし、本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁止されていない」という判例があります(最判平成18年4月14日 民集 第60巻4号1497頁)。
この一文だけでも、民法が苦手な人は嫌になってしまうはずです。
- 自働債権とは何か?
- 受働債権とは何か?
- 相殺の抗弁とは何か?
こうしたことは、民事訴訟法の担当教員が詳しく解説することはないと思います。
債権総論で勉強済みであることを前提に、講義を進めていく教員が多いと思いますので、民法をしっかり勉強していないと、講義についていけない可能性があります。
わからない用語が出てきたらその都度、民法の基本書を振り返りましょう。
一方、民法が大好きという方にとっては、民事訴訟法は、民法の復習になりますし、民法からさらに一歩進んだ応用的な知識を得られる科目ということになるので、大変面白いでしょう。
民事訴訟法は手続法です。
手続法は、一般的に法律に定められた手続きを暗記するだけの法律で、つまらなくなりがちですが、民事訴訟法は手続法の割には、判例も多く単純に条文を暗記するだけの科目にはなりません。
その意味で、面白い科目と言えます。
まとめ
民事訴訟法は手続法ですが、条文を暗記するだけの科目ではなく、判例なども多く、その面白さは民法に匹敵します。
民法が好きで更に極めたい方は、民事訴訟法を選択するとよいでしょう。
民事訴訟に関わる方にとっては常識的な知識なので、弁護士などを目指す方は、法学部でしっかり勉強しておきましょう。