大滝しおんの晴筆雨筆

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宇奈月温泉事件(大審院判決昭和10年10月5日)

シジョセンと学ぶ民法判例集は、紫雲女子大学消費者センターの相談記録(シジョセン)の登場人物たちの会話劇で民法の主要な判例をおさらいするシリーズです。

今日のテーマは「宇奈月温泉事件(大審院判決昭和10年10月5日)」です。

 

登場人物

神前愛佳(部長、消費生活相談員、予備試験合格者、法学部3年)

芽森琴音(カウンセラー、お嬢様、家政学部2年)

白砂菜月(アシスタント、空手女子、体育学部2年)

七緒実乃里(アシスタント、ヒロイン、法学部1年)

村正悠也(顧問弁護士、24歳のイケメン?)

 

登場人物の詳細はこちらでご確認ください。

ootakishion.com

 

琴音「松葉杖をついて菜月ちゃん大丈夫ですの?」

菜月「うん。大した事ないよ。少し足をくじいただけさ。数日練習を休めば治るって」

 

シジョセンの部屋に松葉杖をついて現れた菜月。ギプスを巻いているわけではないが、足を引きずっている姿は痛々しい。

実乃里と愛佳も思わず、菜月のもとに駆け寄る。

 

実乃里「何があったんですか?」

菜月「昨日、空手の練習でしくじっただけだよ。たまにこういう事があるんだよね」

愛佳「無理してはだめよ。温泉にでも行って湯治してきたら?」

琴音「そうですわ。どうせなら、みんなで温泉に行きませんこと。どこか行きたい温泉あるかしら? 実乃里ちゃん?」

実乃里「うーん。温泉といえば、宇奈月温泉ってどこにあるのか調べようと思ったところなんです」

琴音「あら、宇奈月温泉は、富山県の黒部峡谷にありますのよ。でも、どうして、宇奈月温泉ですの?」

実乃里「あっ、富山県の黒部峡谷にあるんですね。実は、民法総則の講義で宇奈月温泉事件の話が出てきたから、どこにあるのか気になったんです」

愛佳「よく勉強しているわね。宇奈月温泉事件の概要を説明してくれるかしら?」

実乃里「はい。宇奈月温泉って実は、源泉がそこにあるわけではなく、黒薙温泉というところから、引湯管で引いているんだそうです」

菜月「へえ、よそから温泉を引いてくる温泉街もあるんだ?」

琴音「そうですわ。黒薙温泉は宇奈月温泉よりも約7キロ離れた上流にありますのよ。1923(大正12)年に引き湯を始めたそうですわ。当時は赤松でできた木管でお湯を引いていたんですの」

実乃里「その木管は、いろいろな人の土地を通っていたんです。その土地の一つをAさんが所有していたんですが、これをBさんに売ったんです。そして、Bさんは自分が買った土地に木管が勝手に設置されたと文句を言いだしたんだそうです」

菜月「ちょっと待って。木管が設置されたのはAさんが所有していたときなんだよな?」

実乃里「そうなんです」

琴音「それなら、Bさんは木管が設置されていることを承知の上で買ったということですわね」

愛佳「そうね。それでも、Bさんは宇奈月温泉の経営者に対して、所有権に基づく妨害排除請求として、木管を撤去するように求めたのよ。でも、宇奈月温泉の経営者は応じなかった。そこで、裁判になったわけね。当時の大審院まで争ったわけだけど、どういう判決が出たか分かるわね?」

実乃里「はい。権利の濫用を理由にBさんの訴えを棄却したんですよね」

琴音「権利の濫用ですわね。確か、民法に規定がありますわよね?」

実乃里「はい。民法1条3項ですね」

 

民法

(基本原則)

第一条

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

実乃里「つまり、外見上は権利の行使のように見えても、社会的に許される限度を超えている場合は、適法な権利行使として認められないということですよね」

愛佳「そうね。実はこの規定は、戦後に導入されたのよ。事件当時の民法にはこの規定がなかったのね。だから、宇奈月温泉事件は権利濫用法理が確立された判例として有名なのよ」

実乃里「そうなんですね」

愛佳「重要なのはここからね。Bさんが買った土地は112坪の広さがあったのね。そして、木管が通っていた土地は、そのうちのわずか2坪だけなのよ」

菜月「はあ? たった2坪で文句言うとかおかしいだろ。Bさんは、宇奈月温泉の経営者に難癖をつけて、金を取るために土地を買ったんじゃないのか?」

愛佳「まさにそのとおりなのよ。そして、仮にBさんの主張通り、木管を撤去するとなるとどうなるかしら?」

実乃里「宇奈月温泉の経営が成り立ちませんよね」

琴音「Bさんの土地を迂回する事も考えられますけど、それだと、工事が大変ですわね。それに、迂回していたら、お湯が漏れたり冷めてしまうおそれもありますわ。宇奈月温泉にとっては多大な損失になりますわね。そもそも、Bさんの土地は急峻な崖で使い道がないはずですわ」

菜月「使い道がないなら、なおさらBさんが文句を言うのはおかしいよな」

愛佳「宇奈月温泉事件では、権利の濫用の判断基準が示されたことでも知られているのよ。大審院は、権利の濫用に当たるかどうかは、次の点から総合的に判断すべきとしたのよ」

 

権利行使者の害意(主観的要件)

当事者ひいては社会一般の利益状況の比較衡量(客観的要件)

 

愛佳「実乃里ちゃん、この事件に当てはめるとどうなるかしら?」

実乃里「はい。Bさんは宇奈月温泉の経営者に難癖をつけてお金を取ろうとしていたんですよね。だから、害意がありますよね。それから、Bさんの土地に木管があっても、特に困ることはないんですよね。そもそも土地の使い道がないわけですし。それに対して、宇奈月温泉は、木管を撤去したり迂回すると経営に影響するから、ものすごく困るんですよね。Bさんと宇奈月温泉の利益状況を比較衡量すると、やはり、Bさんの主張を認める必要はないと」

愛佳「よくできたわ。宇奈月温泉事件は、権利濫用法理を確立した判例。そして、権利濫用に当たる場合の判断基準を示した判例ということだわ」

実乃里「よく分かりました」

琴音「じゃあ、早速明日、みんなで宇奈月温泉に行きましょうよ。お代は私が出しますわ」

菜月「ありがとう。うれしいよ」

 

 

まとめ

 

宇奈月温泉事件(大審院判決昭和10年10月5日)は権利濫用法理を確立した判例である。

権利濫用に当たるか判断する際は次の2点を総合的に判断する。

 

  • 権利行使者の害意(主観的要件)
  • 当事者ひいては社会一般の利益状況の比較衡量(客観的要件)

 

この会話劇に登場する女子大生たちの活躍は、下記のライトノベル小説「紫雲女子大学消費者センターの相談記録 初回500円の甘い罠」でお読みいただけます。

 

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