大滝しおんの晴筆雨筆

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北方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日 民集 第40巻4号872頁)

シジョセンと学ぶ民法判例集は、紫雲女子大学消費者センターの相談記録(シジョセン)の登場人物たちの会話劇で民法の主要な判例をおさらいするシリーズです。
今日のテーマは「北方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日 民集 第40巻4号872頁)」です。

 

登場人物
神前愛佳(部長、消費生活相談員、予備試験合格者、法学部3年)
芽森琴音(カウンセラー、お嬢様、家政学部2年)
白砂菜月(アシスタント、空手女子、体育学部2年)
七緒実乃里(アシスタント、ヒロイン、法学部1年)
村正悠也(顧問弁護士、24歳のイケメン?)
 
登場人物の詳細はこちらでご確認ください。

ootakishion.com

 

琴音「政治家さんのスキャンダルが話題になっていますわ。政治家さんが、私の記事は北方ジャーナル事件同様にもみ消されるべきだと発言したために炎上していますの」

菜月「スキャンダルを起こしておきながら反省してないってことだな。「もみ消されるべき」って特権階級だと思ってるんだろうな」

実乃里「北方ジャーナル事件・・・・・・。それ、今、勉強しているところなんです。なんか、憲法、民法のどちらでも重要な判例らしいです」

愛佳「とても重要な判例だわ。どういう事件だったか分かるかしら?」

実乃里「はい。雑誌の出版社が知事選挙に立候補するAさんのスキャンダル記事を発表しようとしたところ、Aさんが裁判所に雑誌の出版を止めるように命じてほしいと訴えたんだそうです。裁判所は、出版の事前差止めを認めました。それに対して、出版社がおかしいと訴えた事件です」

琴音「裁判所が出版の事前差止めを認めたということは、政治家さんのスキャンダルとは言え、公にするにはふさわしくない記事だったんでしょうね」

菜月「誰が見てもでたらめな内容だったということかな」

愛佳「そうね。公職選挙の候補者に対する評価、批判等の記事は、私たちが投票する際に参考にすべきだから、原則として出版の事前差止めが許されないのよ。でも、例外的に認められることもあるのよ。どういう場合か分かるよね?」

実乃里「はい。『その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるとき』ですね」

愛佳「そうよ。要件が2つあることを読み取ってね」

 

  • その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白。
  • 被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞がある。

 

実乃里「北方ジャーナル事件って、憲法でも出てくるんですけど、民法的にはどういう意味があるんでしょう?」

琴音「民法には、名誉毀損に関するまともな規定がないと聞いたことがありますわ」

菜月「名誉毀損って刑法に規定があるんだよな」

 

刑法

(名誉毀損)

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

 

愛佳「そうなのよ。それに対して、民法には次の規定しかないのね」

 

民法

(名誉毀損における原状回復)

第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

 

実乃里「名誉毀損された後で、名誉を回復するのに適当な処分って……、何かできることあるんでしょうか?」

愛佳「一般的には加害者に謝罪広告を出させるというところね」

琴音「でも、謝罪広告なんて古いですわね。新聞を読まない人やテレビを見ない人が増えているんですもの」

菜月「後出しで謝罪広告を出したところで、でたらめな記事を信じた奴はなかなか目が冷めないだろうし、却って火種になることもあるよな」

実乃里「……名誉の回復って今の時代では難しいですよね」

愛佳「そうね。だからこそ、でたらめな記事は、裁判所による事前差止めを認めるべきという考えが出てくるのね。でも、名誉毀損になりそうな記事の事前差止めができるという規定は、民法にはないのよ。そこで、裁判所が新しい解釈を打ち出したのよ」

 

人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償又は名誉回復のための処分を求めることができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。

けだし、名誉は生命、身体とともに極めて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は、物権の場合と同様に排他性を有する権利というべきであるからである(最大判昭和61年6月11日 民集 第40巻4号872頁)。

 

愛佳「つまり、人格権に基づく事前差止めが認められるということね」

実乃里「民法的には、民法に書かれていない権利を認めたという意義があるんですね」

愛佳「そういうことよ」

 

 

まとめ

 

出版物の事前差止めを求める権利は、民法上規定がないが、人格権に基づく事前差止めが認められるという解釈が打ち出された。

なお、公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には原則として、事前差止めは認められない。

例外として、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは認められる。

 

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