今日の判例は、「日本育英会(日本学生支援機構)の奨学金の単純保証人が分別の利益があるのに保証債務を全額弁済した場合に、育英会に不当利得返還請求ができるのか?」という事例です。
保証人には、連帯保証人と単純保証人の2つの種類があります。まず、両者の違いを確認しましょう。
連帯保証人には、催告の抗弁、検索の抗弁がありません(民法452、453、454条)。
つまり、債権者に対して、先に主債務者に催告するように求めたり、主債務者の財産に対して強制執行するように求めることはできないということです。
そしてもう一つ、分別の利益もありません。
分別の利益とは、複数の保証人がいる場合、保証債務を頭数で分割し合うことができるというものです。
例えば、保証人2名で1000万円の保証債務を負う場合は一人あたり500万円の保証債務を履行すればよくそれ以上請求されることはありません。
ところが、連帯保証人は他に保証人がいても1000万円全額を弁済しなければならないわけです。
一方、単純保証人にはこれらの3つの権利があります。
保証契約というと、連帯保証を意味することが一般的ということもあり、単純保証人にこうした権利があることはあまり知られていません。
そのため、単純保証人であるにも関わらず、連帯保証人と同様に保証債務を履行してしまうケースもあるようです。
以上の知識を前提に判例の事例を見ていきましょう。
育英会から奨学金を借りる場合は保証人が必要です。
保証制度として、機関保証、人的補償の制度があります。
このうち、人的補償の場合は、学生の父母が連帯保証人になり、4親等以内の親族が保証人(単純保証人)になります。
人的補償の場合は、連帯保証人と保証人(単純保証人)の2名、更に機関保証も加われば、3名で保証することになるわけです。
そのため、保証人(単純保証人)となった人は、保証債務を履行しなければならないことになったとしても、分別の利益があるので、学生が返済すべき額の2分の1、または3分の1だけ保証債務を履行すれば足りることになります。
ところが、保証人(単純保証人)が育英会から学生が返済すべき債務の全額の返還を求められたために、支払ってしまったという事例です。
そこで、保証人(単純保証人)が育英会に対して、払いすぎた保証債務について不当利得返還請求を行いました。
育英会側は、保証人(単純保証人)による全額弁済は、「他人(主債務者)のためにする意思で保証債務を履行したものであり、事務管理が成立する、あるいは、主債務者の債務を弁済する意思で主たる債務者に代わって弁済したものであるから、第三者弁済として有効である」として、返還に応じられないと主張しました。
裁判所は、「保証債務が存在しないのにこれが存在すると誤信して弁済した場合は、他人のためにしたとはいえず、非債弁済として不当利得になる」と判断しました。
そして、分別の利益があることを保証人(単純保証人)が知らずに弁済したことについて、育英会側が悪意だったと認定しました。
よって、育英会側は悪意の受益者に当たるとして民法704条に基づく返還義務があると判断したわけです(札幌高判令和4年5月19日)。
民法
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
以上が、単純保証人が分別の利益があるのにそれを保証債務を全額弁済した場合は不当利得返還請求が認められることがあるという判例でした。
高裁の判例ですが、最高裁サイトにも掲載されているので更に詳しく知りたい方は参考にしてください。