今日の判例は、大学院の入学契約を動機の錯誤を理由に取り消した事例です。
錯誤取消を主張するためには、
- 重要性(法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである)
- 因果関係(錯誤に陥らなければ意思表示しなかったであろうという関係)
- 錯誤に陥った人が重大な過失に陥っていないこと
の3つを満たす必要があります。
また、動機の錯誤は、錯誤の内容が表示されていることも必要です。
以上の知識を前提に判例の事例を確認しましょう。
Aさんは社会人として働きながら大学院で医学系の研究を行い博士課程を修了したいと考えました。大学院側とのやり取りにより、それが可能と考えて、入学手続きを行いました。
しかし、実際には、働きながら大学院を修了することは難しかったという事例です。
Aさんにとって、働きながら博士課程を修了できることが、入学を決める際の重要な要素であり、それが難しければ、入学しなかったと言えることから、重要性と因果関係を満たしています。そして、これは動機の錯誤に当たるわけですが、大学院側とのやり取りでその動機が表示されていました。
なお、大学院側は口頭試験で「最低1年間は研究に集中することが必要である」と述べたので錯誤に当たらないと主張していましたが、メールのやりとりなどでは、「自由度は大きい」「最初の1、2年は集中した期間来るのが理想だが4年かけて通いながらじっくり学ぶというのも研究室では前例が無いがあっても良いと考える」などの楽観的な説明を行っていたようです。
裁判所は、Aさんには、いささか慎重さを欠いた部分があったことは否定できないものの重大なる過失があったとまで認められないとして、動機の錯誤として認めたようです。
ちなみに、この事例は、国公立大学の事例でした。
大学院側からは国公立大学における入学許可は行政処分なので民法95条は適用されないとの主張もなされましたが、裁判所は、国公立大学と学生との法律関係は、公法上の無名契約(在学契約) であるとして、民法95条が適用されると解しました。
以上が、名古屋地判平成19年3月23日の事例です。
この判例は最高裁サイトでも検索できるので興味がある方は参考にしてください。