消費者トラブルの解決策というと、クーリング・オフを真っ先に思い浮かべると思います。
クーリング・オフの期間が過ぎてしまい、クーリング・オフができないと、消費者トラブルを解決することはできないと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、消費者トラブルの解決策は一つではありません。
クーリング・オフは、特定商取引法という法律に基づいた制度ですが、それ以外にも消費者契約法や割賦販売法といった法律があります。
この3つの法律は「消費者3法」と呼ばれています。
それぞれの法律には、消費者トラブルを解決する強力な手段が備わっています。それぞれの法律の概要とその使い方を分かりやすく解説します。
- なぜ「消費者3法」が必要なのか? 消費者トラブル解決の全体像
- 特定商取引法(特商法):契約場所・手法に着目した「クーリング・オフ」の法律
- 消費者契約法:悪質勧誘の契約を取り消し・無効にする法律
- 割賦販売法:クレジット・ローン利用時の「支払いのトラブル」を防ぐ法律
- 消費者トラブル発生時にあなたが行うべき具体的な対応ステップ
- まとめ
なぜ「消費者3法」が必要なのか? 消費者トラブル解決の全体像
契約の基本は、民法にルールが定められています。
しかし、事業者と消費者の情報・交渉力に大きな格差があり、民法だけで消費者を保護することはできません。
そこで、民法の特別法として、消費者との契約について特に規定した、消費者契約法、さらに、消費者トラブルが特に発生しやすい取引類型について特定商取引法を設けることで、消費者を保護しています。
また、今では代金の支払い方法として、クレジットカードや個別クレジット契約が締結されることが多いです。
販売業者との売買契約とクレジットカード会社とのクレジット契約は別の契約になるため、売買契約でトラブルが生じても、クレジットカード会社はそれとは無関係に消費者に支払いを請求できるのが民法上の建前になっています。
しかし、売買契約を消費者契約法や特定商取引法により取り消しても、代金は支払わなければならないというのでは意味がありません。
そこで、売買契約で一定のトラブルが生じた場合は、クレジットカード会社への支払いも拒絶できる旨の規定が割賦販売法により定められています。
そして、消費者契約法、特定商取引法、割賦販売法の3つの法律は、それぞれの角度から消費者を保護するための手段を提供しています。
|
法律のグループ |
法律名 |
法律が守る着眼点 |
|
取引方法規制 |
特定商取引法(特商法) |
「どこで、どのように」契約を結んだか(訪問販売や電話勧誘など)。 |
|
契約内容規制 |
消費者契約法(消契法) |
「契約の中身」と「勧誘行為」に問題がないか。 |
|
支払い方法規制 |
割賦販売法 |
「支払い方法」に問題がないか(クレジット利用など)。 |
例えば、訪問販売で契約したがクーリング・オフ期間を過ぎてしまっても、勧誘方法に問題があれば、消費者契約法により取消しが可能です。
また、クレジットカード会社からの支払い請求に対して、支払停止の抗弁権を主張することもできます。
このように、一つのトラブルについて、複数の法律を活用することで解決に導くことが可能になっているわけです。
まとめるとそれぞれの法律は、次のような解決手段を用意しているわけです。
- 特定商取引法:契約を無条件で撤回できる(クーリング・オフ)。
- 消費者契約法:悪質な契約を取り消し・無効にできる。
- 割賦販売法:支払いを拒否できる。
特定商取引法(特商法):契約場所・手法に着目した「クーリング・オフ」の法律
特定商取引法は、消費者トラブルが生じやすい特定の取引方法を規制し、消費者を保護することを目的としています。
消費者の代表的な権利が、「クーリング・オフ」です。
特定商取引法の対象となる取引とは
特定商取引法が適用されるのは、以下の7種類の取引です。
- 訪問販売
- 通信販売(ネット通販など)
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引(マルチ商法、MLMなど)
- 特定継続的役務提供(エステ、語学教室など長期・高額サービスなど)
- 業務提供誘引販売取引(内職商法など)
- 訪問購入
これらの取引は、消費者が冷静に考える時間がない状況で契約させられたり、情報が不十分だったりすることが多いため、特別な規制が設けられています。
販売者は、こうした取引を禁止されているわけではありませんが、法律の規制を遵守していない場合は、行政処分の対象となったり、業務停止命令を受けることがあります。
「無条件の契約解除(クーリング・オフ)」の使い方
消費者を直接保護するための代表的な規定がクーリング・オフです。
消費者は契約締結後、一定期間内なら、頭を冷やして契約内容を見直し、無条件で契約を解除することができます。
- 無条件の解除: 理由を問わず、消費者が一方的に契約を解除できます。
- 期間: 原則として、法定の書面を受け取った日から8日間(連鎖販売取引や業務提供誘引販売取引などは例外的に20日間)です。
- 通知方法: クーリング・オフの証拠を残すため、必ず書面(内容証明郵便が最も確実)で通知しましょう。
消費者契約法:悪質勧誘の契約を取り消し・無効にする法律
特定商取引法が適用されない取引や、クーリング・オフ期間が過ぎてしまった契約でも、事業者側の行為や契約内容に問題があれば、消費者契約法が使えます。
契約の「取り消し」:悪質な勧誘から契約を白紙に戻す
悪質な勧誘行為があった場合、消費者は契約を取り消し、契約を白紙に戻すことができます(消費者契約法第4条)。
- 断定的な判断の提供: 「絶対に儲かる」「必ず治る」など、将来の不確実なことを断定して説明された場合。
- 不実告知・不利益事実の不告知: 嘘をつかれたり、不利な事実を隠された場合。
- 困惑: 居座りや退去妨害などで、帰りたいのに帰してもらえなかった場合。
【重要】 取り消しは、クーリング・オフと異なり、「追認をすることができる時(詐欺だと気づいた時など)から1年間」又は「消費者契約の締結の時から5年間」まで行使できます。
契約の「無効」:不当な条項(キャンセル料・免責条項)を効力なしにする
契約書にサインをしていても、消費者にとって一方的に不当な条項は法律によって無効になります。
- 不当なキャンセル料: 解約時に事業者に生じる平均的な損害額を超える高額な違約金やキャンセル料は、その超える部分が無効となります(消費者契約法第9条)。
- 免責条項: 事業者の責任(債務不履行や不法行為)を一方的に免除する条項は無効となります(消費者契約法第8条)。
割賦販売法:クレジット・ローン利用時の「支払いのトラブル」を防ぐ法律
割賦販売法は、クレジットやローンの分割払いを利用して商品やサービスを購入した消費者を守る法律です。
割賦販売法の役割:クレジット契約特有のリスクから消費者を守る
クレジット契約では、あなたは商品やサービスを提供する販売店と、支払いを代行するクレジット会社の二社と契約を結んでいます。
販売店からサービスが提供されないなどトラブルが発生しても、形式的にはクレジット会社への支払い義務は残ってしまいます。このリスクから消費者を守るのが割賦販売法です。
割賦販売法の「支払停止の抗弁権」の使い方
割賦販売法の最大の武器は、支払停止の抗弁権です。
- 権利の内容: 購入した商品やサービスに重大な問題があったにもかかわらず、販売店が対応してくれない場合、クレジット会社への支払いを拒否できる権利です。(ただし、割賦販売価格が4万円以下の契約[リボルビングは現金販売価格が3万8千円以下]は対象外とされているので注意が必要です。)
- 使い方: 問題の解決のため、まず販売店との交渉を試みます。解決しない場合、クレジット会社に対し、商品に問題があることを明記した書面で「抗弁権の主張」を通知します。
消費者トラブル発生時にあなたが行うべき具体的な対応ステップ
消費者トラブルに遭った際、どの法律を使うにしても、冷静な行動と適切な手続きが必要です。
ステップ1:証拠の保全(録音・書面)
事業者との契約書、広告、パンフレットを全て保管する。
勧誘時の会話や、トラブル時のやり取りは、可能な限り録音する。
メールやLINEなどのやり取りも全て保存する。
ステップ2:どの法律が使えるかを確認する
クーリング・オフ期間内か? → 特定商取引法。
勧誘や契約内容に問題がないか? → 消費者契約法。
クレジット契約で、商品に問題があるのに販売店が対応しないか? → 割賦販売法。
ステップ3:公的機関や専門家への相談
個人の判断で法律を適用しようとすると、かえってトラブルをこじらせる可能性があります。必ず専門家や公的機関に相談しましょう。
消費者ホットライン「188(いやや!)」:最寄りの消費生活センターにつながり、無料で助言を得られます。
専門家(行政書士や弁護士):クーリング・オフや契約の取り消し・無効の主張は、内容証明郵便など法律的な手続きが必要であり、専門家に依頼することで確実に行えます。
まとめ
消費者3法は、私たちが悪質な取引に巻き込まれたときに、消費者トラブルを解決するための有効な手段になります。
クーリング・オフ以外にも解決手段があることを理解したうえで、状況に応じた適切な対策を取ることが大切です。
ただ、一人で解決しようとするとトラブルが大きくなることもあるので、まずは、最寄りの消費生活センターや法律の専門家に相談しましょう。