【民法判例】宇奈月温泉事件とは?「権利の濫用」と所有権の限界をわかりやすく解説

民法第1条3項の「権利の濫用」を学ぶうえで、法律学習者が必ず通る超・有名判例が『宇奈月温泉事件(大判昭和10年10月5日)』です。
「自分の土地を他人が無断で使っているのだから、撤去を求めるのは所有者として当然の権利では?」
一見すると正当に思える所有権の行使(妨害排除請求)が、なぜ「権利の濫用」として拒絶されたのでしょうか。
この記事では、温泉の引湯管トラブルを題材に、権利の濫用が成立する要件と所有権の限界を会話形式でわかりやすく解説します。
行政書士・宅建・公務員試験などの民法対策として、判例のロジックと〇×問題の解き方をサクッと整理したい方はぜひ参考にしてください!

六条 奏音
まずは民法第一条3項……『権利の濫用は、これを許さない。』について進めるわよ!
休井 創太
3項っすか。どれどれ……『権利の濫用は、これを許さない。』……めちゃくちゃ短っ!

民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。

六条 奏音
短くても民法全体を支配する超重要規定よ! 一言で言えば『いくら法律上の権利を持っていても、社会的に許されない身勝手な使い方は認めない』というルールなの
休井 創太
え、でも自分の土地とか自分の物なら、どう使おうが所有者の自由じゃないんっすか?
六条 奏音
原則はそうよ。所有権絶対・私権不可侵が民法の基本姿勢だからね。でも、社会の中で生きていく以上、好き勝手にしていいわけじゃないの。たとえば『ただ相手を困らせるためだけ』とか『不当にお金をむしり取るためだけに権利を振りかざす』みたいな行為は許されないのよ
休井 創太
なるほど。一言でいうと『権利を持ってるからってイキり散らすな』ってことっすね
六条 奏音
イ、イキり……!? 表現が品悪すぎるけれど……まあ、本質的にはそういうことね。さて、この『権利の濫用』で絶対に避けては通れない、日本の法律学習者が全員学ぶ超・超有名判例の問題がこれよ!

【問題】次の記述の正誤を答えよ。

Yが敷設した引湯管が権原なく他人の所有地の一部(約2坪)を通過していたところ、Xは、その事実に着目して不当な利益を得る目的で、当該土地を含み利用価値の極めて乏しい傾斜地全体(約112坪)を安価で購入した。その後、XはYに対し、引湯管を撤去するか、さもなければ周辺の広大な土地(約3,000坪)と共に不当に高額な価格で買い取るよう要求し、Yがこれを拒否したため、所有権に基づき引湯管の撤去を求める訴えを提起した。
この場合、引湯管が撤去されるとYや地元住民に致命的な損害が生じるのに対し、Xの受ける損害が著しく僅少であるとしても、Yによる無権原の占有という事実が存在する以上、Xの所有権に基づく撤去請求が権利の濫用として拒絶されることはない。

解説

六条 奏音
これが権利の濫用に関する金字塔、宇奈月温泉事件(大判昭和10年10月5日)を題材にした問題よ! 事例が少し込み入っているけれど、休井君、人間関係の整理はできたかしら?
休井 創太
えーっと、登場人物の企みがエグいっすね。要するにこういうことっすよね?

Y(温泉業者): 昔から引湯管を引いていたが、実は2坪だけ他人の土地を勝手に通っちゃっていた(無権原占有)。
X(地上げ屋): Yの「弱み」を発見! 嫌がらせ目的でその2坪を含む崖地(約112坪)をタダ同然で買い取る。
Xの要求: 「引湯管を撤去するか、俺の持ってる関係ない土地3,000坪をバカ高値で買い取れ!」とYを脅す。

六条 奏音
その通りよ! Yさんが断ると、Xさんは『僕の土地を無断で使ってるんだから、所有権に基づいて引湯管を撤去しろ!』って裁判を起こしたのね
休井 創太
で、問題文の主張は『Yが無断で使ってるのは事実なんだから、どれだけYや住民が困ろうが、Xの所有権に基づく請求が拒絶されることはない=Xの勝ち!』って言ってるわけっすね
六条 奏音
そう。でも、本当にそれでいいと思うかしら?
休井 創太
いやいや、絶対ダメでしょ。引湯管を外されたら温泉街全体が潰れるレベルのダメージなのに、Xが得る利益なんて『嫌がらせが成功してスカッとした』くらいじゃないっすか
六条 奏音
まさにそこがポイントよ! 判例は、いくら正当な『所有権』に基づく請求(妨害排除請求)であっても、次の条件が揃う場合は権利の濫用として許されないとしたの
  • 権利者が得る利益が著しく僅少であること
  • 相手方や社会全般の受ける損害が極めて甚大であること
  • もっぱら不当な利益を獲得する目的で権利行使がなされていること
休井 創太
完璧にアウトっすね。つまり『無権原で使っていたYが悪くても、Xの嫌がらせ請求は権利の濫用になるから拒絶される』のが正解っすね
六条 奏音
正解! だから問題文の『拒絶されることはない』という結論は『誤り』になるわ!

 解答 誤り。

【創太のざっくりメモ】
所有権があっても無敵じゃない!
「相手への大ダメージ」×「自分の利益ゼロ(または不当な金儲け目的)」=権利の濫用で即アウト!

【判例の公式要旨】
所有権に基づく妨害排除請求であっても、権利者が得る利益が著しく僅少であるのに対し、相手方や社会全般の受ける損害が極めて甚大であり、かつその権利行使が専ら不当な利益を獲得する目的でなされるなど社会通念上許容されない場合には、権利の濫用にあたり、その請求は許されない。(大判昭和10年10月5日)

六条 奏音
ふふん! どんなに強い所有権であっても、社会通念を超えた身勝手な振りかざし方は認められない……法律の正義を感じる素晴らしい判例でしょ!
休井 創太
たしかに。でも、2坪の隙を突いて3,000坪買わせようとするXの執念もすご過ぎっすね……。俺なら考えるだけで寝ちゃいます
六条 奏音
そこ感心するところじゃないから! さあ、どんどん次の問題に進むわよ!
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